人力によって地面から塩のブロックを引き剥がし、それをラクダに載せて高地へと運ぶ。
太古から延々と続いてきたこの伝統的な仕事が、今まさに消え去ろうとしている。
ラクダですら命を落とすことがある灼熱の地、ダナキル低地の【レゲド】。
この地で採れる塩を目当てにエジプトの王朝がエチオピア北部を占領したとの記録もあり、
今でもエチオピアでは結婚式での貢ぎ物にする人々もいるほど貴重な塩が採れる場所である。

2000年前に使われていた塩を掘る道具が見つかり、この塩採掘の長い歴史が証明された。
レゲドでは紀元前の昔から塩を掘る人々や塩を削る人々、塩をラクダで運ぶ人々が分業で働き、
それぞれ人並み以上の収入を得てきたのだ。
しかし近年ダナキル低地への道路が整備され、トラックでの塩輸送が開始された。
ラクダ百頭が数日かけて運んできた量の塩が、トラック1台により1時間足らずで運べるようになり、
多くのラクダ使いが廃業に追い込まれた。間もなくラクダのキャラバンは見られなくなると思われる。

ダナキル低地では、すでにブルドーザーによる近代的な塩採掘も始まっている。
古来から続いてきた人力での塩採掘も、将来的には姿を消してしまう可能性がある。

数千年も続いてきた伝統ですら、急激に浸透する資本主義の前には脆く儚い。
またひとつ、アフリカの文化が滅びゆくことになりそうだ。
