南米ボリビアとペルーにまたがるチチカカ湖は、埼玉県とほぼ同じ面積の広大な湖だ。
標高3810メートルと富士山頂よりも高い場所にあり、大型船舶が航行する湖としては標高世界一。
インカ帝国初代王マンコカパックの降臨伝承が残る、地元民にとっては神聖な湖でもある。

この湖には葦で造られた40もの浮島があり、インカ帝国以前からウル族が住んでいる。
15世紀以前から生活スタイルを変えていないウル族は、自分達の島を観光地として開放している。

浮島へ向かうボートのハンドルを握るのは、《チョリータ》と呼ばれる先住民女性。
長い三つ編みに山高帽、裾広がりのスカートが彼女たちのトレードマークである。
20年ほど前までは先住民女性の社会的地位は低く、このような仕事をする女性は皆無であった。
しかし2006年にボリビア初の先住民大統領、モラレスが就任。
その後先住民地位向上の機運が高まり、女性の社会進出も急激に進んだ。

ハンドルを握ったチョリータは巧みにボートを操り、観光で栄える浮島《ウロス島》に到着。
湖に多く繁殖する《トトラ》という葦を何重にも編み込んで作ったブロックをつなぎ合わせ、
それらをロープで固定して島にする。
重労働ではあるが、これで居住スペースができると考えるとお手軽なのかもしれない。

住居・学校・病院・商店・ラジオ局など、島内のほぼ全てのものがトトラで作られている。
島民が家の中を案内し、島のメンテナンス方法や調理方法など生活スタイルを説明してくれる。

生活情報の後は、古代を彷彿とさせるトトラ製の手作り船で他の島々を巡る。
トトラ船を漕ぐのは島の子供たち。小さいのに力があり、よく働く。

しかし、この子たちが将来も島に住み続ける可能性は低いであろう。
『伝統的な生活ではなく、都会生活を選ぶ若者たちが多くなった』と地元の男性は嘆く。
『このような浮島での生活は、あと50年もしたら廃れているだろう』
近い将来、彼らは観光のためだけに昔の暮らしを披露する《観光ウル族》になるかもしれない。

近年湖底から西暦300年以前頃の骨や陶器などが発掘され、水中博物館の建設が決まった。
たとえ観光のためであっても、ウル族の貴重な文化が失われないことを祈るばかりである。
