大きな耳に長い鼻、地平線に落ちる夕日を浴び、赤く染まる大地を悠然と歩く姿。
アフリカの動物といえば誰もが思い浮かべるゾウが、近年大きな危機に直面している。

ケニアのナイロビに、子ゾウ達の孤児院《シェルドリック動物孤児院》がある。
ここでは親をなくしてケニア中から救助された20頭近くの子ゾウが保護されており、
30名近くの飼育員たちが24時間体制で懸命にリハビリをし、自然に帰す努力をしている。

密猟や干ばつなど、ゾウはさまざまな理由で親を失い、群れから取り残される。
近年は人間が農地を広げ、ゾウの生息域と衝突することにより孤児となるゾウも多い。
しかし子ゾウ達の世話は、一筋縄ではいかない。
飼育員たちは深夜も含め、毎日3時間おきにミルクを与える必要がある。
ミルクは生きるために欠かせないものだが、脂質が多すぎる牛乳では子ゾウが下痢を起こしてしまう。
そこで創設者の故ダフニ・シェルドリックは10年以上も実験・改良を重ね、
粉ミルクとココナツ、その他いくつかの材料を混ぜ合わせた小ゾウのための特別なミルクを開発した。

左:創設者のダフニ・シェルドリック 右:ダフニと娘のアンジェラ
それまでは人間が子ゾウを育てることは非常に困難といわれていたが、
このミルクが開発されたことにより、人の手によって赤ちゃんゾウを育てることが可能になった。

しかしこの人工ミルクを飲んでも、生き残ることができない小ゾウも多いという。
これはゾウは優れた知性や記憶力を持ち、感情豊かで繊細な面があることに関係している。
女系集団であるゾウの群れには母親・女兄弟・世話役などが存在し、子ゾウは絶え間ない愛情の中で育つ。
孤児院の飼育員たちはゾウの家族としての役割を果たし、精一杯の愛情を注がなければならないのだ。

ゾウたちは3歳までこの孤児院で過ごし、その後ケニア国内の野生復帰ユニットに移される。
さらに大きくなると、密猟対策チームに保護されたツァボ国立公園に移ることになる。
この子ゾウたちが自立し野生で生きていけるまで8~10年の間、彼らは献身的な世話を続けていく。

『野生に戻ったゾウが、生まれた赤ん坊を見せに帰ってくることもあります。
命を救われ、愛されたゾウであれば、育ててくれた人たちのことを二度と忘れません』
と、代表のアンジェラ・シェルドリックはカメラに向かって話した。
『とても悲しいことに、アフリカゾウの個体数は人間のために激減しています。
自然界の生態系を担い、とても重要な役割を果たしているゾウがいなくなれば
自然環境は非常に過酷なものとなり、多くの種が永遠に失われてしまうでしょう』

孤児院は一般開放されていたが、現在は感染を防ぐために観光客の受入を停止。観光収入が途絶えた。
新型コロナウィルスの影響は、子ゾウ達にまで及んでいるのだ。

ちなみに、あの体の大きなゾウがどのようにして眠るのか?気になる人もいるだろう。
野生では大人のゾウは立ったまま寝るが、赤ちゃんゾウは地面に横になって寝る。

撮影中も子ゾウたちはよく脚を折り曲げ、仲間同士でじゃれ合い、泥浴びや砂かけをしていた。

ゾウの孤児院は、私たちが失ったものの責任は私たち自身にあることに気づかせくれる場所。
この無邪気な子ども達がやがて成長して野生にかえり、
10年後・30年後・50年後も、たくましくアフリカの地を歩いてくれていることを祈る。