総人口は300人程度、ケニア最小民族であるエルモロ民族。
トゥルカナ湖畔に彼らの村が2つある。

ナイルパーチやティラピアを主食とし、ナイル系民族としては珍しく牛を持たず農業もしない。
魚から様々な薬を作り、湖に関する数多くの物語を語り継ぎ、戦士の証としてカバを狩ってきた。
そんな湖の恩恵だけで生きてきたエルモロ民族に、危機が迫っている。

【干上がる湖】
温暖化とダムの影響により、トゥルカナ湖の水位は年間約30センチほど低下しているという。
そのためエルモロは村から遠ざかる湖を追い、定期的に家を移動する必要に迫られている。
アルカリ化が進んだ湖水は飲用に適さなくなり、遠くまで水汲みに行かなければならなくなった。
『昔は村のそばでたくさん魚が捕れた。だが最近は丸太船で沖合に出なければ魚が獲れない。』
『ワシが小さな頃は、あの丘の上まで湖だったのだ。』と、長老のデモトゥは嘆く。

【言語の絶滅】
近隣の大部族であるサンブルの言語を話すようになったエルモロは、自らの言語も失いつつある。
エルモロ語を流暢に話す最後の老人が1999年に死亡、今は数人の老人が単語を覚えているだけだ。
純粋なエルモロは40人しかいないとする歴史学者もいるが、《言葉の絶滅=民族の絶滅》と考える
多くの言語学者にとっては、エルモロは民族として既に絶滅しているのかもしれない。

【文化の衰退】
エルモロの人々はカバやワニの肉をご馳走とし、カバを仕留めた男は勇者として称えられた。
しかし政府により野生動物の狩りが禁止され、カバやワニ、カメすらも狩ることができなくなった。
カバ狩りの勇者を称えるカバの歌は祝いごとの場でしか歌われなくなり、
勇者に贈られるカバの骨で作られたイヤリングは現在数人の老人だけが所有するだけとなった。
政府の近代化政策によって村の近くにも小学校ができ、洋服を着て町へ出る若者も急増。
『漁になんて出たくない。学校に行きたいんだ!』と、伝統文化の崩壊が加速されている。

【不安な未来】
トゥルカナ湖の水源であるエチオピアのオモ川に、中国資本による巨大なダムが現在建設中である。
このダムが完成すると、最大10メートル水位が下がるという。村にとっては致命的な水量低下だ。
実際にトゥルカナ湖面の低下により、この村の北に住んでいた彼らの氏族が絶滅している。
民族は消滅するのではなく、より強大な民族に吸収され、その文化が失われて姿を消す。
サンブル・トゥルカナ・レンディレなど、強大な民族の脅威に晒されているエルモロ民族。
彼らが博物館でしか見られないような、過去の民族とならないことを祈るばかりだ。
